フリーランスフリーラン

とくにないです

経理の人妻との不貞を疑われて翌日から職を失ったお話

世の中には数多もの理不尽が跋扈しておりますが、私のこれまでの職歴を振り返ってみますとまさに暗黒と形容するに相応しい理不尽の連続でした。壁に衝突する度にそれを壊したり、乗り越えたりすることをせずに壁に沿って歩き続けた結果、あまりにも同じ壁に出会うので訝しく思ったところ、それがどうやら四角い部屋であるらしいことに気がついたのはつい最近の出来事です。

 

フリーランスへの華麗なる転身を経て心の洗浄は大分進みましたが、それらの経験は確実に私の心に影を落としています。忘れたい、忘れたいけれども忘れてはいけない。負の財産を礎にして成り立っている現在の私、その初心を忘れないためにも当時の様子を思い出しながら、今後の戒めとするためにもここに書き綴っておきたいと思います。

 

一社目、冠婚葬祭関係の会社。

 

コンピュータの専門学校在学時、卒業後はニートになることを決意し、就職活動を一切行わなかった人修羅である私に対して「高い就職率」を掲げる学校側は半ば無理矢理に企業との面接をセッティングしました。確か卒業の一週間ほど前です。イースター島にある石像彫刻のような顔をした就職担当の教員が不良債権を見るような目で「この日に面接を入れたから行きなさい」と言ったことを覚えています。

 

面接先は冠婚葬祭関係の会社で、新たにパソコンを使用した事業を立ち上げるために人材が必要とのことでした。時期的に応募も少なかったのでしょう、私は簡単な面談を経て内定を得ることができました。

 

アナログ思考な会社が新たに立ち上げる事業は遺影写真の遠隔出力サービスでした。Photoshopを使用して写真の加工を行うのですが、今ほど機能が充実していなかったのでとても苦労した記憶があります。服を着せ替えるだけならまだしも、見切れている腕を描き加えたり、髪を増量したり、口角を上げるなどの要求は故人を知らなければ不自然な仕上がりになってしまう可能性があります。

 

一度膨大な量の鼻毛を有する方の写真が送られてきたことがあります。指示内容は「鼻毛を消せ」でした。僕のマウスを握る手が震えたことは言うまでもありません。大自然を彷彿とさせ、雄大とも言えるほどの鼻毛はもはや個性と言えるでしょう。この個性を消失させると言うことは故人を悼む上で大きな障害に成り得るのではないでしょうか。葬儀に訪れる人々が写真を見て「あれ?」と疑問符を頭に浮かべてしまったとしたら全てが台無しになってしまうかもしれません。

 

どうしよう…

 

答えは沈黙。その他の加工には親切丁寧に応じて個性はそのまま残すことにしました。「劇的ビフォーアフター」と言う番組でも匠が古い柱をそのまま残しながらもモダンなリフォームを施して依頼者を喜ばせると言うシーンがありましたから、それに近しい私なりの心遣いです。が、そうしたら普通にクレームがきたので泣いて馬謖を斬る思いで鼻毛を削除しました。

それからは会ったこともない故人に対して「僕はこれで良かったのでしょうか?」と疑問を投げかける日々が続き、答えの出ないまま十数年の月日が流れています。

 

 

ある日会社に出社すると社内が騒然としていました。

 

「今井が会社の顧客情報を持ってライバル会社に転職した」

 

今井と言うのは鼻毛を削除する遺影写真を遠隔出力する新規事業を立ち上げ、私を採用した会社の重要人物です。その今井が突如行方をくらましたかと思いきや、顧客に対して別の会社のサービスを営業・販売していたと言うのです。

 

私個人から見た今井は、なんとなく裏切りそうなハゲ方をしていたので常日頃から信用していなかったのですが、会社からすれば大打撃を被ったようです。巻き添えで何故か私の信用度まで下がり閑職へ追いやられましたが、その頃の私はFF11に夢中だったので状況に流されず、定時帰宅してはヴァナ・ディールでの冒険を繰り広げていました。

 

しかしながらこのことを切欠に社長が社員不信になってしまい、能力もない馬鹿息子を急遽召還して今井に代わる重要職へ配置すると言う愚行へと走ってしまったのです。

 

一度馬鹿息子のPCを触る機会があったのですが、ブラウザの履歴は「人妻」「不貞」「寝取り」などの不穏なキーワードで埋め尽くされていました。入社時に「花屋に務める彼女がいて結婚を前提に付き合っているので頑張って働く」と言った内容の挨拶をしていた気がするのですが幻だったのかもしれません。基本的には出力サービスを主とする会社なのでアルバイトの女性が多い環境だったのですが、こう言った噂はどこからともなく漏れるもので馬鹿息子の評判は日々か下降していきました。怖いですね。

 

そんなこんなで業務縮小や小規模なオフィスへの移転などを繰り返し、明らかに会社の経営が傾いた頃、私は社長からの呼び出しを受けました。社長は馬鹿息子とは違い有能ではあるのですが、古狸と言う表現がぴったりの悪代官顔です。セクハラが得意そうなオーラを放っており、明らかに私のことを嫌っているのでこれまで避け続けていたのですが、さすがに呼び出しに応じないわけにはいきません。

 

「お前、Aとデキてるだろ?わかるんだよ俺には」

 

Aと言うのは社長お気に入りの女性経理です。既婚でお子さんもいらっしゃいますがまだ若く、この頃は30歳くらいだったはずです。で、そのAさんと私がデキていると、中二病を煩っているような物言いで詰め寄られました。既に確信しているようです。

これは退職後に判明するのですが、社内には盗聴器や隠しカメラが仕掛けられていたとのことでした。それにしても見当違いな言いがかりでしたが、弁解の余地もない波状攻撃に、前日のヴァナ・ディールでの過酷な冒険から睡眠不足に陥っていた私はすっかり参ってしまいました。

 

「もう明日からこなくていいから」

 

少し笑みを孕んだ言い方で社長はそう言い放ちました。私は不遇ながらも私なりに頑張り続けた日々を振り返り、心の底から込み上げるものを感じていました。業務中にmixiの日記を更新していたこと、後半は一日三回日記を更新していたこと、そこで知り合った人とのオフ会でビール瓶で殴られて歯が欠けたこと。

 

「一ヶ月分の給料は退職金としてくれてやる」

 

辞めます。

即断でした。今思い返すと一日にして職を失うリスクを全く考えていない浅はかな決断ですが、私にとっては何よりもFF11での冒険が何よりの大事だったのです。当時の母の心中を察すると背筋に冷たいものが走りますね。

実際この数ヶ月後に母は恋人を作って家を出て行き、私は実家に一人暮らしをすると言う珍妙な立場に追いやられるのですが、それはまた別のお話です。