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連続電波障害

とくにないです

一日

私は高尾山の中腹にいた。

高尾山は東京都の八王子にある標高599メートルの山で、そのアクセスの良さと整備された登山ルートのため、年間登山者数で世界一を誇る山である。

この日は平日ではあったが、散歩感覚で登山道を進むお年寄りや、遠足で訪れたのであろう小学生のグループが目に付く。私が小学生の頃はこう言った行事では友人と先を争って進んだものだが、昨今の小学生は世間で嘆かれるように体力の低下が目立っているようで、顔を赤くした少年少女が余裕のない表情でいるのを何度も見かけた。天候は快晴と言うほどではなくとも、シャツ一枚で登っていてもじわりと汗が滲む程度には暖かい。

山頂へ到着すると、そこにはまだ初春の香りが残っていた。舞い落ちる桜の花びらを目で追っていると、雲の切れ間から暖かな日が射して登山者たちが小さく声を上げる。

「すみません。写真をお願いできますか?」

中年の女性三人組が一瞬目の合った私に声を掛けた。私はスマートフォンを受け取り何枚か写真を撮る。

「きちんと撮れたかな。確認してください」

「大丈夫です!綺麗に、あぁ!本当に綺麗に撮れてます!」

満面の笑みで高らかに笑う三人。恐らくは写真や景色が綺麗に撮れていることに加えて、自分達の風貌も綺麗だと言う意味合いなのだろう。少し自虐的な笑みを浮かべたリーダー格の女性は私に頭を下げ、あとの二人を伴って売店の方へと歩いて行った。

高尾山には幾つかの登山ルートがある。私は人だかりの中にある地図を見て「水音を聞きながら森の中を進む」と言うフレーズを気に入り、六号路から下山することにした。

六号路は耳をくすぐるような心地良い水音に包まれていた。赤く張りのある楕円の木の実や、くるんとした可愛らしい産毛のゼンマイ、のそのそと歩く大きなトカゲは私に背を突つかれてようやく草むらへと身を隠した。幾つかのお堂で手を合わせ、お賽銭を置いて独り言ちる。

既に充分な時間を過ごした気持ちでいたが、まだお昼と言って良い時間だった。一日はこんなにも長いものなのだと久方ぶりに気がついた。