フリーランスフリーラン

とくにないです

ウォーターサーバーを契約させようと女神が誘惑をする

知らない場所が怖いと言う理由で日々同じ場所を巡っています。場所はショッピングモールです。ショッピングモールの主に二階フロアをまるで回遊魚のようにぐるぐると、見る人が見ればマグロと判断せざるを得ない、無機質な瞳と逞しい背びれで、一説には時速100km以上と言われるスピードで、時には憂いを帯びた眼差しと真っ白く透き通るような肌でぐるぐると、今日も一日元気に闊歩する男、それはまぎれもなくヤツさ。僕です。

 

フリーランスと言う職業柄常に仕事がある訳ではないので、と言うかある時の方が少ないので、一日の充実度を飛躍的に高めるためにとにかく歩いています。己を高め続けることこそが生き甲斐です。たまに低めてみるのが長続きのコツです。

 

ただ歩くだけでは肉体的な満足度しか得られませんから、気持ちの上でも満足するために「自分はウィンドウショッピングをしているのだ」と言う自己催眠を掛けています。ダイソーで買った150円の財布の中には勿論、雀の涙ほどの金額しか入っていません。何故なら仕事がないからです。仕事をくれとは言いません。お金だけください。

 

ある日いつものようにショッピングモールの二階フロアを鬼の形相で回遊する僕。と、容姿端麗な女性が突如目の前に現れて道を塞ぎました。

 

「どうぞご覧ください!ウォーターサーバーのお試しです!ご自宅にウォーターサーバーは如何ですか?」

 

一方は毎日義務であるかのようにショッピングモールの二階を闊歩する正義の男。もう一方は組織に身を置きウォーターサーバーの契約を得ようと本意ではない(ボディラインの出易い)衣装に身を包み、時折浮かべる照れ笑いがもはや女神と言える域にまで達した女神。

 

人と神、本来出会うはずのない二人が平日の昼下がりのショッピングモールでまさかの邂逅。

 

お願いだ。君のエデンを僕だけに見せておくれ。二人だけの創世記を作ろう。などと言いたくなる気持ちを全力で抑えながら女神の言葉に静かに耳を傾けます。

 

ウォーターサーバーをご自宅に設置しませんか?最近はご自宅に設置するご家庭も増えているんですよ!」

 

ほう、ウォーターサーバーを我が家に。それは…実に面白い。

 

そもそも僕はジュースと言うものを飲みません。最近は専ら炭酸水ばかり飲んでいます。確かにウォーターサーバーを設置してソーダーマシンと組み合わせれば実質無限に炭酸水を飲むことができます。ウォーターサーバーが家にあれば、ペットボトルを始末する手間も省けてとても魅力的と言う他ありません。

 

ウォーターサーバーが自宅にあるとモテますよ!」

 

ちょっと詳しい説明を聞か…え?モテ…?ん?なんだって?ウォーターサーバーがあるとモテる?なんで?どうして?どういう理論で?ウォーターサーバーに媚薬が仕込んであって飲ませるとイチコロとか…そういうことなのか?それとも『水』『お湯』『マカロンみたいなボタンがあって『マカロンを押すとマカロンがコロンッと出てきて、それがどうにも可愛いので結果モテるとか…そういうことか?

 

「例えば飲み会の後に誰かの家で飲もうって言う流れになるじゃないですか」

 

ならないです。

 

「例えばの話ですよ?それでうちにウォーターサーバーあるぜ?って言う話をすると皆で行きたい!ってなるんですよ」

 

こないで。

 

「それで実際にウォーターサーバーが家にあったらモテちゃう感じです!」」

 

僕は思いました。こいつ絶対嘘ついてる。

 

そもそも飲み会なんて誘われないし、この前だって業務委託先のオフィスで「田波さんと一度飲んでみたいです!誘ったら絶対来てくださいね!」って言われたのにそもそも『飲み会連絡用』のグループにすら誘われていなかったんですよ。

 

百歩譲って飲み会に誘われたとして、その後に誰かの家で飲もうってなる思考回路もわからないんですけど!「うちにウォーターサーバーあるぜ?」って言う話をしたら皆が家に来るって言う流れが絶望的に理解できないんですけどぉ!

 

仮にこれが「うちに反重力装置あるぜ」だったらわかります。そんなこと言われたら絶対に行きたいし、重力を打ち消すような作用を生み出す負のエネルギーであるところのエキゾチック物質を元にタイムマシンを開発して過去へと移動し、最高値更新前のビットコインに参入して大金を稼いでからショッピングモールを丸ごと買って自由に闊歩したいと思います。

 

でもウォーターサーバーですよ?『水』『お湯』もしかしたら『マカロンくらいしか機能がないものが家にあって何故「行きたい!」ってなるの?マカロンが超好きなの?

 

で、「それで実際にウォーターサーバーがあったらモテちゃう感じです!」ここが最高にわからない。

 

ウォーターサーバーがある』『モテちゃう感じです!』の流れが全く理解できない。その間にある500ステップくらい省略してない?最短でもウォーターサーバーがある』『地球上からうちにあるウォーターサーバー以外の水がなくなる』『水を求めて人々が暴徒と化す』『モテちゃう感じです!』じゃないの?そうなると身を守る術も必要になってくると思うんですけど、それもサポートに入ってるの?あ、入ってないのね。

 

僕は悟りました。

 

如何に見目麗しい女神であろうと、彼女にとって僕は鴨以外の何者でもないのです。「こいつモテなさそうだから、モテるって言えば契約するやろ。うひひ」と思われているに違いありません。怒りです。僕の身体は今怒りに支配されています。世界中の怒りが集まって意思を持った思念体こそが僕です。

 

うおー!この野郎!すみません!ちょっと急いでるのでパンフレットだけください!